第3章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 前編
薬湯を口に含んだまま、私は青年の顔に近づいた。
そして、そのまま……
青年に口を付けると、少しだけ薬湯を流し込んだ。
こくっ……
青年の喉が少し動いた。
飲めた……
その事に安堵して、私は少しずつ何度も何度も口に含んでは、青年に口移しで薬を飲ませていった。
口に含むだけでも、苦い薬湯。
それでもなんとか、一回分は全て身体の中に入っただろう。
さっきまで荒かった呼吸も、少し落ち着いてきたみたい。
でも、熱はそう簡単には下がらない。
私は冷たく絞った手拭いを、青年の額に置いた。
すぐに温くなる手拭いを何度も何度も絞っては、額に置いた。
額に置きながら、ふと考えた。
こんな出戻りの年増が、青年に口を付けてしまって、
悪いことしちゃったかなぁ……
ま、覚えてないか。
それより……
子供がいたら、こんな風に一晩中看病とかしていたのかな……
そんな事を ぼんやりと考えていたら……
いつの間にか私はその場で、眠ってしまっていた……