第3章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 前編
「よく堪えたね。傷は深いけど、骨までには達していなかったよ」
目を瞑ったまま返事も出来ないでいる青年に、優しく声をかける先生。
「京子さんもありがとう」
「いえ、私は何も」
「さぁ、もう一踏ん張りだ!浴衣に着替えさせてあげよう」
「はい!」
私達は、傷口に負担がかからないように、なんとか二人がかりで着替えをさせた。
「よし、また明日の朝 様子を見にくるよ。薬は置いておくから、痛みが増すようだったり、熱が上がるようだったら飲ませてあげて」
「わかりました。ありがとうございました」
先生はそれだけを言うと、にっこりと笑って帰って行った。
そして、その夜……
私の部屋の硝子を、鴉がつつく音で目が覚めた……
あの青年に何かあったんだ!
咄嗟にそう思った私は、急いで青年の部屋に向かった。
するとそこには……
熱に浮かされて、苦しそうに荒い息をする青年がいた。
今度は急いで手拭いと薬湯の支度をして、部屋に戻った。
「酷い汗……ごめんね、気付いてあげられなくて……
」
私は声をかけると、汗を拭った。
そして
「薬湯だけど……飲めるかな……頑張って……」
細い急須の口のような物がついた硝子の瓶に入った薬湯を、青年の口近付けるけど、まったく飲むような気配がない。
少しずつ垂らしても、全て頬を伝って流れ落ちてしまう。
「…………」
私は薬湯を口に含んだ。