第3章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 前編
顔についた血を拭っていると、お医者様が到着した。
かなり鴉にせっつかれたようで、肩で息をしている。
「京子さん、勝手に上がったよ」
「はい、いつもありがとうございます。よろしくお願いいたします」
私はさっと立ち上がると、頭を下げた。
いつも診察をお願いする先生は、家族を鬼に殺されていた。
だからかな、いつもどんな隊士が来ても すごく丁寧に診てくれる。
「傷が深いな……」
先生がボソリと呟いた。
「ここには彼 一人で来たのかい?隠は?」
「いえ、一人で……ただ布団に寝かせてからは、ずっと目を瞑って眠っているようです」
「そう……とりあえず処置をしてから、一緒に着替えをさせてあげよう。声をかけるまでは、部屋の外で待っていてくれるかい?あと……お湯をもっと沸かしておいて」
「はい!よろしくお願いします!」
私は部屋を出て、また台所に向かう。
そして、あんなに大きなサイズの服はなかったな……と思い、浴衣を用意することにした。
先生からは、何度かお湯の催促があり、その度に部屋を訪れた。
青年の顔からは、だんだんと血の気が引いていくようで恐ろしかった。
だけど先生は冷静に私に次の指示を続ける。
私はずっとその指示に従っていた……