第3章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 前編
本当は離れの広い部屋を用意していたのだけれど、門から一番近い部屋へ案内した。
私は彼を布団に寝かせると、すぐに
「お医者様と着替えを用意いたします!」
そう言って部屋を後にした。
一緒にこの屋敷を任されている叔母は、もうかなりの高齢であまり身体が動かない。
最近はほとんどの事を、私一人で賄っていた、んだけど……
あんな大きな傷、見たことがない……
震える指先を必死で押さえていると、先程の大きな鴉が目に入った。
「お医者様の先生、呼んで来てもらえる?」
「リョウカーーイ!リョウカーーイ!」
良かった!気のいい鴉で!全く知らん顔の鴉もいる。
きっと青年と鴉の関係も良好なんだろうな。
さっきも凄く心配そうな、顔をしていたし……
私は台所で湯を沸かすと、次に着替えを持って部屋に戻った。
青年は、少し浅い呼吸をして、目を瞑っている。
苦しそうだな……
私は青年の手を取り、血に塗れた箇所を拭いていった。
青年は目を瞑ったままで、何も言わない。
着替えもさせてあげたいが、いくら痩せた身体とはいえ一人で着替えさせるのは、無理そうだ。
とりあえず、今は少しでも汚れたところを拭いてあげよう……