第3章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 前編
屋敷に戻って、隊士を迎え入れる支度を整える。
暫くして「ごめんください」と
低く落ち着いた声が、門の方から聞こえた。
私はその声を聞いて、ほっとした。
何故なら怪我を負った隊士は、皆、怪我の大小に問わず、辛そうな声を上げていたから。
きっと、本部に戻る途中の宿代わりに使うのだろう。
私は、訪れた隊士を労う気持ちで 笑顔で門まで走って行った。
「お務めご苦労様でございま……」
そこに立っていたのは、、、
立っていられるのが不思議な程、大きな傷を負った、背の高い青年だった……
「は、早く此方へっ!!!」
私はその青年に駆け寄ると、直ぐ様、青年の脇に入りその体躯を支えようとした。
なのにその青年は
「大丈夫です。部屋へ案内をお願い致します」
さっと身体を避けて、そう言った。
「何をおっしゃいますか!さぁ!早くっ」
私は彼の脇に回り、手で身体を支え……
いや、全く支えになっていないかも知れない。
だけど、はいそうですか、と案内だけなんて出来ない。
少しでも、この青年の支えになれたら……
そんな事を考えていたら、
「血で塗れてしまいます……」
「洗えば落ちます。それよりも早く、こちらへ……」
「…………かたじけない」
そうポツリと呟くと、足を引きずるように歩きだした。