第3章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 前編
此処を賄う資本は、私達の場合は全て産屋敷家から出ていた。
湯水のように使える程の金銭はないけれど、外に働きに出なくても全く困る事のない生活。
規則正しく、礼節をわきまえて過ごすのは、隊士がいつ訪れても恥ずかしくない状態で出迎えるためだ。
隊士が来る前には、鴉がやって来て教えてくれる。
初めて見た時は本当に驚いたけど……
でも、便利だよね。
鴉にも色々な性格があって、細かく怪我の状態なんかを教えてくれる子や、大雑把な子、隊士の食の好みまで伝えてくる世話好きな子もいる。
怪我をした隊士が来た時は、流石にバタバタとするけれど、誰も来ない時はのんびりしている。
今日は八百屋に新鮮な豆が売っていたから、豆ご飯でも炊こうかな、
なんて考えていた矢先、ひときわ大きな鴉が飛んできた。
その鴉は、一声だけ大きく鳴くと、またすぐに飛んで行った。
その声を聞いて私は、急いで屋敷に戻った。