第7章 愛する人【愈史郎】
馬鹿らしい何が軍事工場だ。
心の中で吐き捨てるが、京子の前で言う訳にはいかない。
京子もだが、ここに居る皆が“お国の為”と言って戦っていて、それに背くような事を言えば“非国民”と罵られる。
俺が罵られるのは一向に構わないのだが、コイツらは駄目だ。
なので俺は心の中で吐き捨てる。そして京子にはお守りと称して“俺の目”を渡している。
「必ず肌身離さずに付けておけ」
「ふふ、お父さんは心配症なんだから!」
にこにこと嬉しそうに笑う京子は、愛らしい少女に育っていた。
「いいか、必ずだぞ。工場もお前が一番近いが、必ず皆と共に行動しろよ」
「わかってるよ!ありがとう、お父さん」
そう言って、俺にぎゅっと抱きついてくる。
……
幼い頃からの習慣なんだが……とにかく京子は俺の傍から離れるのを嫌がったのだ。
いつも通り軽く抱き締め返し、声をかけてやる。
「大丈夫だ。今夜も一緒に紅茶を飲もう」
「うん」
こんな事、大きくなればしなくなると思っていたのだが、京子はいつまでも俺に甘えてきていた。
母親が居ない分、俺に甘えているんだろう
そう思っていた。
「お父さんの淹れてくれる紅茶ね、凄く美味しいの。今度、私にもコツを教えてね」
一度、沸かしたての湯が入ったヤカンをひっくり返してからは、怖くて近寄らせないでいたからな……
「そうだな、お前も国の役にたつ程に成長したんだからな」
京子の頭を撫でながら言った。
「ふふ!そうだよ!頑張ってくるからね」
「気をつけるんだぞ」
「はぁい!」
大きく手を振る京子。
俺はいつも陰から見送っていた。