第7章 愛する人【愈史郎】
その日の夜もまた、京子は俺の布団に入ってきたので追い出そうとしたら、アオイに文句を言われた。本当にあいつは昔から小うるさい奴だ。
京子が眠った事を確認すると、俺は布団から抜け出し、まだ灯りの着いた居間に行った。
夜は夜襲の標的になりやすいので、明るいのは御法度なんだが……もちろん、そんなものは俺の術で掻い潜れる。
居間では女三人が起きて、茶を啜っていた。
「京子ちゃんは、寝た?」
禰豆子が俺に声をかけてきたので
「あぁ……」
俺は気だるそうに返事をした。
「これ見て。京子ちゃんが持っていたの」
そう言ってアオイがボロボロの紙を出してきた。
紙……
「写真か……これは京子の……」
「お父さんかなぁ……?」
禰豆子が困ったような顔で笑った。
「おい!これの何処が俺なんだ!?一つも似ているところがないだろう!?」
思わず少し大きな声が出た。
「着物……」
カナヲが静かに言った。
「え?」
「着ている物が……よく似ているの」
確かに……顔は正直、紙が依れて解りにくいが着物がよく似ている。
今時こんな格好をしている奴は、そうそう居ない。
「彼奴が持っていたのは、これだけなのか?」
そう問いかけると、三人が残念そうに眉尻を下げて笑った。そしてアオイが言った。
「京子ちゃんね……私達が聞いても、家族の話をしないのよ……」
それは……“しない”じゃなくて……
「“出来ない”のか?」
「たぶん、家族はいないんじゃないかな……」
カナヲがポツリと言った。