第7章 愛する人【愈史郎】
居間に行くと、皆が楽しそうに食事をしていた。
戦争中とはいえ、ここには食料も沢山ある。
京子も目を輝かせ
「ね、おとしゃん、ごはんいっぱい!おきてきて、よかったでしょ?」
ニコッと笑う京子。
ここにいる子供達は誰も俺の素性を知らない。
まさか俺が鬼だとは、夢にも思っていないだろう。
「ほら、見ててやるから、お前も早く食え」
「いっしょにたべよ?」
俺は食えないんだ。そう言えたら楽なんだが……
「俺は腹が減っていない。見ていてやるから、食え」
「うん!」
俺の言葉に嬉しそうに返事をする京子。
アオイが飯を出してやると……
ガツガツと食べだした。
よほど腹が減っていたのだろう。
とにかくよく食べる。
朝は気付かなかったんだが……
あまりにも汚いその食事の仕方に、俺も含め周りの子供達までもが、ポカンと口を開けて見ている。
アオイがぽつりと呟いた。
「京子ちゃん……昔の伊之助と同じ食べ方するのね……」
それはきちんと躾られていない、親がいないのではないか?と言う思いを込めて言ったのだろう……
もちろん当の本人は、そんなことを気付いていない。
そして俺は一言
「京子、周りに倣ってゆっくり食え」
その声に京子が此方を見た。
京子の名を本人に向けて呼んだのは、この時が初めてだった。