第7章 愛する人【愈史郎】
いや、伝った気がした……だけだった。
「おとしゃん、おとしゃん?だいじょおぶ?」
目を開けると、すぐに俺を心配そうに見つめる京子と目が合った。
温かなモノは……京子の小さな手だった。
「起きていたのか?」
気だるそうな声が出た。
「うん。おなかすいたの。おとしゃん、ごはんたべよ?」
ニコッと笑いながら言う京子。
食事……俺は皆と同じモノは喰えない。
「俺は空いていない。お前だけ行って食ってこい」
「どうして?いっしょにたべよ」
やはりまた、ニコッと笑う。
薄暗い部屋の中、京子の白い歯がキラキラと光っているように見えた。
「おとしゃんと、いっしょがいいの」
そう言うと京子は俺の布団に潜り込んで来た。
「おい!」
「おとしゃんと、いっしょがいいのっ!」
俺は はーっと大きなため息を吐くと、近くにあった時計を見た。
明け方に眠ったからか、今はもう夕刻だった。
「行くぞ」
俺が布団から出ると、京子も後から付いてきて、俺の手をぎゅっと握り
「うん」
嬉しそうに返事をした。
その時にはっきりと顔を見た。
どろどろに汚れきっていた顔とは違い、京子は大きな瞳をした、なかなかに愛らしい顔の少女だった……
今度は心の中で大きなため息を吐いた……