第7章 愛する人【愈史郎】
俺は久しぶりの深い眠りの中、夢を見た。
あの日の夢だ。
『鬼殺隊の援護と救援にあたって欲しい』
それがあの人の……珠世様の願いだった。
それに頷くと言う事は、どうなるかなんて容易く想像できた。
二度と珠世様に逢えない
咄嗟にそう思った俺は、二つ返事なんて出来るはずがなかった。
だけど珠世様の麗しい瞳は、とても真っ直ぐで……
俺には頸を縦に振るしか、選択肢はなかったんだ……
きっと……珠世様の選択は間違えてなかったのだ……
だって、ほら、いま、珠世様は……
愛する家族と一緒に、笑顔で過ごしていらっしゃるんだから……
暖かな家庭だ
珠世様はご主人と子供の為に美味しい手料理を作って……
あぁ、きっと美味いんだな。だって皆が楽しそうに笑っている。
俺と一緒の時には、料理なんて必要なかったからな……
優しい母の表情の珠世様を、俺は少し離れた場所から見守る。
そして食後に茶を淹れる。
紅茶は……ご家族が存命の頃にはなかったからな……
それは珠世様と俺だけの時間だ……
そう珠世様と俺の“二人だけ”の……
頬に温かいモノが伝った……