第7章 愛する人【愈史郎】
俺は急ぎ足でまた薄暗い廊下を戻る。
禰豆子も黙って着いてきてくれる。
そして部屋の戸を開けると俺は言った。
「大変なんだ!京子の頭がビシャビシャに濡れているんだ!!!」
「…………」
返事のない禰豆子。
「いや、だからっ……!!!」
もしかして、これは凄く悪い症状なのか!?そんな病気なんて聞いたことがない!
禰豆子は黙って俺の手を引いて部屋の外に出ると、戸をパタンと閉めた。
そして……下を向いて震えている!?
「おいっ!なんだ!?」
返事をしない禰豆子に思わず声を荒げると
今度は禰豆子が俺の手を引き、また急ぎ足で居間に戻った途端……
ゲラゲラと大きな声で笑い出した!?
「おい、だからっ……」
「ゆ、愈史郎さんっ……ち、違うのっ……あ、あれはね……」
そして禰豆子が息を整えて言った言葉を、俺は思わず繰り返した。
「寝汗!?」
「そうよ、子供は寝入りばなに、びっくりするくらい頭に汗をかくことがあるの……
そ、それを……」
ぶーーーっと、噴き出して笑う禰豆子を見ていると
「子供はあんなに汗をかくものなのか……」
俺は濡れた服を摘まんだ。
「皆と一緒に寝たと思っていたのに、いつの間にか愈史郎さんの所に行っていたのね、京子ちゃん」
にこっと笑いながらカナヲが俺に熱い茶を差し出してきた。
俺は喉を潤すように、それを少し口に含み飲み込むと
「そうみたいだな……」
ポツリと呟いた。