第7章 愛する人【愈史郎】
いつの間にか眠っていたようだ……
ん?
俺の腹の辺りが何故か濡れている……
京子!?何故ここに!?
いやそれより……
京子の頭が、ビシャビシャになっている!?
どういう事だこれは!?
俺は部屋を飛び出すと、薄暗い廊下を急ぎ足で居間に向かった。
そこには禰豆子とカナヲが居て、茶を飲んでいた。
「あ、愈史郎さん」
にこーっと禰豆子が笑って言った。
「先程はありがとうございました」
丁寧に頭を下げるカナヲ。
「え?あ、あぁ。もう座って大丈夫なのか?」
カナヲの横には布団が敷いてあり、そこには真っ白な産着を着た子が寝ていた。
「はい。さっきお乳もあげたんですよ」
お乳…………
そう言ってにこっと笑うカナヲを見て思い出す。
「そうだ!そんなことより、京子が!」
「京子ちゃんが?」
「どうしたの?」
「禰豆子、ちょっと来てくれ」
俺は出産を終えたばかりのカナヲじゃなく、禰豆子に声をかけた。
まぁ、やはり元“鬼狩り”よりも、元“鬼”の方が正直、心安いのもある。
「うん、ちょっと行ってくるね」
さっと立ち上がる禰豆子にカナヲが声をかける。
「私も行こうか?」
「ううん、何かあったら呼ぶからゆっくりしてて」
だけどひらひらと手を振る禰豆子には もう鬼だった頃の面影はなかった。