第7章 愛する人【愈史郎】
俺は屋敷に着くとカナヲを褥に寝かせ、湯を沸かし始めた。
「まだ産むなよ。すぐにどちらか連れてくる」
「う、うん。大丈夫、そんなに直ぐに出てこな……」
陣痛の波が来たのか、ぐっと声を堪えて苦しそうなカナヲ。
「力になれず 悪い。とにかく 直ぐにどちらかを連れてくる」
「…………」
返事がない。
「……カナヲ?」
まさか……
「駄目……」
「嘘だろ……」
「頭が……出て来てる……」
こんな時に、薄く笑ってくるカナヲ。お前、やっぱり笑顔の使い方間違えてる!!!
「こ、呼吸だ!お前の花の呼吸で押し込め!」
慌てて意味不明な事を言う俺に、
ふーーーっと大きく息を吐いたカナヲが
「手拭いっ!!!沢山用意してっ!!!あと、お湯もっ!!!」
聞いた事のないような、大きな声で指示を出してきた。
「わ、わかった!!!」
俺はバタバタと手拭いを集めに行った。
俺が跳んであいつらの元に行けば、往復5分とかからない。
だけどあいつらが歩いてここまで来ると、30分以上はかかるだろう。
だけど目の前で始まったお産を放り出して行くわけにも……
大丈夫。あいつらなら、ちゃんとここに辿り着く。
俺がやらないと……
……
だけど……
珠世様……
これは、本当に俺がやらなければいけないんでしょうか……?