第9章 すれ違う心
「...........知ってるよ」
「.........え?」
「セナの事、ずっと見てたって言ったでしょ?」
「...........義元さん?」
「セナに好きな人がいるのは分かってたよ。それが辛い恋だって事も..........撮影中に辛そうにしてる時があったしね。君がどんな人を好きなのかは知らないけど、俺なら君を泣かせないし、辛い顔はさせない」
.........だから、優しくしないで。
どんなに優しくされても、私はいつもあなたに社長の姿を重ねてしまう。
これが社長なら、この言葉が社長の言葉なら....
社長、社長、社長.....彼以外を好きにはなれない。
「ごめん、泣かせないなんて言っておきながら、今君を困らせてるよね。でも俺は結構気が長いんだ。気長に待つから、今まで通り友達として付き合って、ね?」
優しく微笑むと、ぽんっと、大きな手が私の頭を優しく撫でた。
「さ、監督が待ってる。行こう」
優しく引っ張ってくれるこの手を握り返せば幸せになれるのかもしれない。
一瞬でもそう思ってしまう自分は弱くて最低で、嫌になる。
だけどダメなの。
だって、この引っ張ってくれる手が、社長の手なら良かったのにって、今でもどうしても思ってしまう。