第9章 すれ違う心
「このスクープ写真を買えば、雑誌には掲載しないと言ってる。反対に言えば、お金を出さなければ明後日発売の週刊誌に掲載されるわ。この話はきっと、龍王丸の元にも行ってるはずよ」
「そんな..... 」
「私の一存では何ともできない。これは社長の判断を仰ぐことになるわ」
「えっ?」
「確認しておきたいんだけど、龍王丸とは、何でもないのよね?」
「もちろんだよ!だって、私は.....」
そんな事、ケイティが一番知ってるじゃない!
「社長を裏切ったら、私が許さないわ」
私の揺らいだ心を見抜いたような目でケイティは見て、低い声で言った。
「裏切るなんてそんな.....」
私の心を占めるのはいつでも織田信長という人。彼だけなのに。
「あぁごめん、悪かったわ。あなたを責めたいわけじゃないの。ただ社長にこの写真を見せるのは躊躇われるわね」
社長に、この写真を見られてしまう.....
あの日、義元さんと出かける前、エレベーターで彼に会った事を思い出す。あの日の彼は優しくて、なのに私は言葉を濁して騙してる気分になった。彼は、これを見て少しは何かを感じてくれるんだろうか.....
「社長はきっと、この写真を見ても何とも思わないよ」
そうきっと、何とも思わない。
だって、デートに行こうと誘った時も、鬱陶しそうにしてた。
「.........アンタは、もう少し社長の事分かってると思ってたけど、私の考え違いだったみたいね」
ケイティはため息をついて、残念そうに呟いた。
社長の事なんて、全然分からないよ。
会いたい時にも会えない。偶然会えば抱きしめたりキスして来たり.......
彼の事をもっと知りたくても、鬱陶しいと言われてしまって、取りつく暇もないのに....
「まぁ、恋もデートも芸の肥やし。どんどんすればいいけど、これからは気を付けてちょうだい。分かったわね」
「はい。ごめんなさい」
あんなにいつも、社長のスクープ記事を見てきたくせに、自分がそれをされる立場になるとは思ってもいなかった。
義元さんは全然変装してなかったし、私もいつも通り気にしてなかったから...
義元さんの優しさにクラッときた自分にバチが当たったのかもしれない。とりあえず、今日もこれから映画の撮影がある。義元さんに会ったら謝ろう。