第8章 心の隙間
「とんでもないです!今日一日、楽しかったです。その.......美術的な事はあまり分からなかったけど、義元さんの真剣な表情に見惚れたって言うか、本当に好きなんだなぁって思ったら、色々と昔の自分を思い出しました」
「セナの昔?どんなだったの?」
「私は中学から陸上部で短距離を走ってたんですけど、ちょっと怪我で陸上を続けるのは無理になっちゃって.......でも本当に走るの好きだったから、たまに大学のあのベンチからトラックを眺めるのが好きなんです。ふふっ、変なやつですよね?」
本当は、もっと近づいて土の匂いも嗅ぎたいと言いたかったけど、変態すぎるかなと思って言うのをやめた。
「............知ってるよ。いつも見てたから」
「..........えっ?」
「あの場所、俺もよく使ってたんだ。ほら、こー言う仕事してると中々そっとしておいてもらえない事が多いでしょ?だから、一人になりたい時はあのベンチに座って本を読んだりしてね」
「あ、じゃあ私がその大切な場所を取っちゃってたってことですよね?.........知らなかったとは言え、ごめんなさい.....」
お気に入りの場所を知らない内に奪ってたんだ。
「そうじゃないよ」
カタ、と箸を置いて、義元さんは優しく微笑んだ。
「確かに最初は、ファンの子が待ち伏せしてると思って、何回目かの時に注意しようと思って近づいたんだ。そしたら、キラキラした目で運動場の方を見て、美味しそうにお弁当を食べてたから、あぁ、ファンの子じゃないなって........。俺も毎日大学に行けるわけじゃないし、君もいつもいるわけじゃなかったけど、いる時は決まって運動場の方を見て、楽しそうにお弁当を食べてた」
.............いや、私もうあぶない子でしょそれ.....ってか、そんな所見られてたなんて。
「..........いつしか、君の姿を探すことが楽しみになったんだ」
運動場のトラックをニヤニヤ眺めながらお弁当を頬張ると言う、とんでもなくマニアックな趣味を見られていた事に悶絶する私に構わず、義元さんは言葉を続けた。