第1章 ネットニュースの人
織田信長は、とにかく有名人だ。
現在の彼の肩書は大手芸能プロダクションの社長。
少し前までは社長業と兼任で、モデルや俳優業もしていたけど、今は社長業に専念している...........らしい。
社長でイケメン。それだけでも十分に天は二物を与えたのに、彼の凄いところはその頭の良さもで、日本一賢い大学の法学部に通っていて、既に弁護士資格も持っているらしい。
そんな彼を世間が放っておくわけもなく、
テレビやネットニュース、週刊誌の報道等で彼の名前を聞かない日はないほどに、日本中の人が彼を知っている。
だけどそれはあまりいい噂ではなく、女癖の悪さと経営手腕の冷徹さが常に彼には付き纏っていて、はっきり言えば最低の男だ。
けれども、彼の並外れた容姿とそのカリスマ性が世の女性達を虜にしていて、どんなに彼の悪行を報じられようと、最後にはカッコいい、仕方がないと言った感じに世論は収まっていた。
常に違う女性とのゴシップ記事で世間を賑わす彼に憧れているのは私も同じで.....
ただ私は、世間とは少し違う憧れ方をしていた。
私は、彼が風のようだった時代を知っている。
それは、私がまだ小学六年生だった時、夏休みで暇で、たまたまテレビをつけた時、そのテレビのライブ放送で彼を初めて見た。
それはインターハイの男子100mの決勝。
あまりライブ放送されることのないインターハイだけど、花形競技と言われる男子100mの模様は当時もライブ放送されていた。
第一レーンから順に選手の紹介が始まり、その中でひときわ端正な顔立ちで目立っていた彼に、小学生ながらに見惚れてしまったのを覚えている。
更に衝撃だったのはその後。
スタートの合図と共に走り出し、軽やかにしなやかに他の選手達を寄せ付けずゴールを切った彼は、その時僅か高校一年生で、インターハイの最速記録を打ち出した。
その時の彼の走りが目に焼き付いて離れなくなり、私は中学に入って陸上を始めた。
私より四学年上の彼に、大会などで会えることはないと分かっていたけど、大学まで続けていればもしかしたらと微かな期待をしていた。
けれどあの日のレース以来、彼は忽然と陸上界から姿を消し、次に彼を見たのは映画のスクリーンの中だった。