第6章 助言
『遊びの女はね、家には絶対に招き入れないの。あなたは彼の家に行ったの?』
今朝、麗美さんに耳元で囁かれた、社長のいわゆる遊びの女とその女に飽きるサインの一つ目を思い出した。
彼は、私を家に入れる気はない。
遊びの女の烙印を落とされた瞬間だった。
「どうした?どこで抱かれるか決めたか」
艶のある声が耳を掠め、悪戯な手が私の腿を摩るけど、心が急速に冷えていく。
「...........っ、抱かれません」
「何?」
「し、社長が私の事好きじゃないのは知ってます。でも付き合うなら、順番に行きたいって言うか........」
人生初付き合うのに、急に抱かれるとか心が本当に追いつかない。
「手順はちゃんと踏んでやってる。もうそろそろいいだろう」
太腿を撫でる手は、汗で濡れた私のシャツの中へと入って来たけど、その手を止めて社長へ向き直った。
「っ、そうじゃなくて、育みたいって事です」
「育む?何をだ」
社長は、怪訝そうな顔で私を見る。
きっと彼の中には、お互いの気持ちを育むと言う考えはないんだろう。
「と、とりあえず、デートしませんか?今日撮影した所に観覧車があって、その観覧車にカップルで乗って一番上に来た時に、その...ジンクスが...」
キスすると幸せになるってジンクスがあるみたいなんです。って言葉は言えなかった。
だって、そんなことを言えるほどの関係はまだ築けていない。
「デートなどくだらん事を。そんな事は敬太郎に言って連れて行ってもらえ」
「ケイティは彼氏じゃありません。じゃあせめて、連絡先を交換して下さい」
付き合ってるはずなのに、私は彼の連絡先すら知らない。
社長と商品としてじゃなく、織田信長と春海セナとしての繋がりが一つでもいいから欲しい。
「そんなものは必要ない。俺は、貴様と専属契約はしたが、貴様の言う様な彼氏になるつもりはない。日々つまらん事で煩わされるのはごめんだ」
...........じゃあ、専属契約って何?付き合うとは違うの?
必要ないと言い切る彼の綺麗な形の唇と、冷たい目.........