第6章 助言
「あの、投げてもらえますか?」
そこまで取りに行くのは危険すぎる。
「阿呆、貴様が取りに来い」
さすが信長様!
揺るがないオレ様っぷりにこれは従うしかなさそうで.....
逃げきれると思われる距離まで近づいて、彼の掌の上のワイヤレスイヤホンを素早く取ろうと手を伸ばした。
(あれっ?すんなり取れた。)
てっきり悪戯されると思ってたから、すんなり取れて拍子抜けした。
ホッ....
「............じゃあ、失礼します」
グイッ
「わっ!」
安心したのも束の間、背後から手を引かれ、ぽすっと彼の膝の上に座る形で倒れた。
「甘いな、俺が貴様を逃すと思ったかセナ?」
背後から、彼の手にがっちりと捕らえられ、彼の声が耳を掠めた。
「なな何言って.......離してください」
「離さん」
ちゅうっと、首に彼の唇の感触。
「.........ふっ、汗の味がする」
「!?!?!?!?!?」
ヒィーーーーーーーーーーーーーー!!
恥ずかしくて死ねる!死ぬ!死んじゃう!!
1時間位走ってたから汗だくなのは確かで....
好きな人にそんな事言われるなんて嫌すぎる!
「やっ、ほんとやめて下さい!走って汗だくできっと......」
汗臭いに違いない。
だって、まだこれから体を動かそうとする社長からはいい匂いがする。
私はきっとかなりベタベタして汗臭を放っている。
それなのに、背後から抱きしめないで欲しい。
必死で身体を捩るのに何で離してくれないの!?
「諦めろ、貴様のどんな匂いにも唆られる。それに、抱いたらどうせ汗を掻く。同じだ」
やめて欲しいのに、彼は首筋や耳へのキスを止めない。
「だだだ抱くって、ここで?」
ここ、トレーニングジムですよ!?
「ここが嫌なら貴様の部屋へ運んでやる。社長室でもかまわん」
「やっ、そー言う問題ではなくて..........」
あれ?
今の彼の言葉に違和感を覚える。
突きつけられた選択肢は、ここか、私の部屋か、社長室。同じくビルの中にあるのに、彼の家と言う選択肢は含まれていない。