第6章 助言
靴を脱いでマットの上でストレッチをしながら社長を目で追った。
彼もまた、違うマットの上でストレッチをしている。
(身体、しなやかだなぁ)
見た目はすらっとしているし、裸はもちろん見た事はないけど、頬が触れた胸板の感じとか、引き寄せられる腕の感じからすると、かなり鍛えられた筋肉をしているのに、バネの様に身体が伸び縮みしている。
16歳の頃よりも、ひと回り以上鍛え上げられた体つきを見ていたら、この間の事が思い出された。
(やばい、意識したら急にドキドキして来た。部屋でもストレッチはできるし、早くここを出よう)
この間はキスだけじゃなく、胸まで触られた。(いや、触る以上のことをされた)二人っきりは危険だ。
好きだし、好きだし、好きだけど、多分?付き合ってることに私たちはなっているはず?だけど、言われた通りに薬も飲んでるけど、まだ全く彼との距離感が掴めない。
『あの男は最低よ。抱かれたら最後、紙屑のように捨てられるだけよ』
今朝の麗美さんの言葉が頭を掠めた。
(っ、そうだ。抱かれたら、それがきっと最後の日になってしまう)
こんな所で何かあるとは思えないけど、社長室での前例があるだけに信用できない。早くここを出よう。
「お疲れ様でした」
もう半分逃げる様に言い捨てて部屋を出ようとした時、
「セナ」
「はいっ!」
振り返ると、社長はチェストプレスに腰をかけ、手に何かを持って私に見せている。
なに?
「忘れ物だ」
「あ、それ!」
よく見ると、それは私のワイヤレスイヤホンの片方。さっき、声をかけられた時、返してもらっていないことに気付いた。
何で!?