第6章 助言
「はい。オッケーです」
カメラマンさんのオッケーの合図で、ポーズを取る体の力を緩めた。
「ありがとうございます」
軽くお辞儀をして次の衣装に着替えるため控え室へと歩いていると、
「おはようございます」
突然、声をかけられた。
「あ、おはようございます。お疲れ様です。.......えっと.....」
声をかけて来たのは、お天気キャスターの紅林麗美さん。
この間、社長室で社長とキスしてた人だ。
...............何だろ?
彼女は軽く口の端を上げながら、ゆっくりと私に近づいて来た。
社長室で会った時は一瞬だったけど、近くで見るととても綺麗な人だ。
白い肌にぷっくりとした綺麗な唇。そしてライトブラウンの巻き髪がとても彼女に似合っていて、スタイルも、出てるとこは出てて腰が細く足がキレイで、自信に満ち溢れていて........
どこから見ても完璧な女性に思えた。
「...........信長には、もう抱かれたの?」
彼女の美しさに見惚れていると、急にそんな事を耳元で囁かれた。
「まっ、まさか!何言って、そんな事してません!」
未遂につぐ未遂で、致しておりません。が正解だけど、そんな事言えるわけもなく、ブルブルと大きく頭を左右に振って完全否定をした。
「...........でも、キスはしたでしょ?」
「っ....................」
してないと言えばいいのに、社長とのこの間のキスシーンが急に頭に浮かんできて否定できなかった。
「気をつけなさいね。あの男は最低よ。抱かれたら最後、紙屑のように捨てられるだけよ」
麗美さんの綺麗な唇が、残酷な言葉を私に伝える。この唇に、社長はあの優しいキスをしていたのかと思うと、胸がギリギリとして、嫌な感情が湧き上がって来た。
「わ、分かってます」
抱かれたら最後........
麗美さんの様に綺麗な人でもダメだったのなら、私はそれこそ一度でポイ捨てされそうだ。
嫌な感情の次は、目頭が熱くなってきて、涙が出そうになった。
でも、泣いてはいけない。メイクが取れたら迷惑をかけてしまうし、目が赤くなったら困る。
俯き、ギュッと唇を強く結んで涙を堪えた。