第5章 都会の空気
「行くぞ」
「えっ?」
私の顎から手を離すと、今度は手首を掴んで強引に歩き出した。
「どこに?」
「貴様の部屋に決まってる、早く開けろ」
「は、はいっ」
慌てて鍵を取り出して玄関を開けた。
「邪魔するぞ」
さっさと靴を脱いで私の部屋へと入り、キョロキョロと何かを探し出した。
「あの..........」
「どこに置いた?」
「あの、クローゼットの中に」
「は?貴様は阿呆か、だからそんな目になるんだ、早く出せ」
「はいっ!」
慌ててクローゼットを開けると彼が先に入って奥に追いやられていた空気清浄機を持ち出した。
そのまま部屋の隅の邪魔にならない所に置くと、コンセントを差して電源を入れた。
「どんな時も電源は消すな、分かったな」
「はい、ありがとうございます」
「..........なぜ使わなかった」
責めるような目で私に問いかけると、ドカッとベッドの上に座った。
六畳一間にベッドもソファも置けるわけもなく、私も常にベッドをソファ代わりにしてはいるけど、彼が座るとこんなにドキドキするのはやっぱり意識してしまうから。
「あの、使った事がないし、あまりこー言うものに頼りたくなかったって言うか......健康だと思ってたから」
ビクビクしながら答えると、彼は大きなため息を一つ吐いた。
「見せてみろ」
「わっ!」
ぐいっと手を引かれ、彼の横に座らされた。
「こっちを向け」
私の両頬に手を添えると強引に彼の方に向かせられ、目を覗き込まれた。
大好きな人の顔面ドアップは心臓を騒がせる。きっと今の心拍数は、100mを走り切った後よりも速いに違いない。
「病院には行ったのか?」
「は、はい」
「医者は、何て?」
「排ガスとかハウスダストによるアレルギー症状だって」
「阿呆が、せっかく貴様のために用意したのに無駄にしまい込むとは」
「ごめんなさい」
「まぁいい。じっとしていろ、消毒してやる」
そう言うと、ペロっと、彼の舌が私の目を舐め始めた。