第5章 都会の空気
このエレベーターに乗れるのは、寮の住人とそのマネージャー。あと臨時で寮を使用するタレントさんと、そして社長だけ。社長の自宅はこの建物の最上階3階分がそうらしい。その階には社長の持ってるカードをかざさないと止まらないシステムになっている為、同じエレベーターを使用していても、私が行くことはできないようになっている。
一人暮らしだと聞いたけど、そんな広いスペースのどこで寝てるんだろう。その内お邪魔させてもらえる日が来るといいなぁ、なんて考えていると、社長室のある20階でエレベーターが止まった。
もしかして、と期待していると、会いたかった人が偶然乗ってきた。
「お疲れ.........」
様です。と言いたかったのに、低い声に素早く遮られた。
「貴様、何だその眼は」
「えっ?」
「この眼はどうしたのかと聞いている」
私の顎をぐいっと持ち上げて、眼を覗き込んできた。
(あ、そうだ、会えた嬉しさで、目が充血してるの忘れてた)
「あの、何かハウスダストとか排ガスの影響でアレルギーがいきなり出ちゃって」
会えて嬉しいけど、怒ってるみたいでちょっと怖い。
「部屋に、空気清浄機があるだろう」
「あっ、はい。あります............うーんと、ありま....す?」
あれのことかなぁ......
「なぜ疑問形で言う?使ってないのか?」
何だか、使ってないって言ったら怒られそう。
「はい。あっ、いいえ、あの」
「どっちだ」
「使ってません。ごめんなさい」
目ヂカラ半端ない彼に射抜かれるように見られると、怖くてもう涙が出てきそうで、それに、こんなに近づかれると、この間の事を思い出してしまって。何もされていないのに、うまく息が出来ない。
久しぶりに会えた嬉しさはすっかり吹き飛ばされ、彼の剣幕にビクビクしている間にエレベーターは寮のフロアへと着いた。