第5章 都会の空気
「鼻で呼吸ができないなら、唇が少し離れた時に、息継ぎをしろ」
ペロっと、私の唇を舐めながら、艶のある声が私にキスの仕方を教えてくれる。
「ふっ.....んっ、でも、声が.......ん」
息をしようとすると声も漏れてしまって、たまらなく恥ずかしい。
「声は隠さなくていい。もっと聞かせろ」
ちゅ、ちゅく、にゅるっ
舌を触れ合わせたり、吸いつかれたり、上顎を舐められたりと、キスは想像以上に奥が深い。
「んっ...........っぁ..........」
「セナ」
何だろう?社長に甘く名前を囁かれると、下腹の辺りがジンとする。
それに、頭ももうぼーっとしてきて、体がふわふわする。立っていられない。
完全に力が抜けて、ガクンっと、膝から落ちるように床にお尻がついた。
「セナ!」
驚いた社長も慌ててしゃがんでくれた。
「はぁ、っ、ごめんなさい。何かふわふわして体に力が入らなくて、はぁ、それにやっぱり息が苦しくて」
正直に今の気持ちを言ったら、社長はブッと吹き出して笑った。
・・・・・・・・・・
あれが、上達する日が来るとは思えないけど、キスがとても気持ちの良いものだということは分かった。蕩けそうで、ずっとしていたい。私は社長の事が好きだから本当にそう思うけど、社長は私の事が好きじゃなくてもできるなんてすごいな。はっきりと、恋愛感情はないと言われていても、あんなキスをされると、勘違いしたくなる自分がいて、心はやはり複雑だ。
「社長今、何してるのかなぁ」
寝ても覚めても社長の事ばかり考えてる。
ずっと、恋愛して来なかった人生を、物凄い勢いで取り返そうとしているみたいだ。
「会いたいなぁ」
あの日以来会っていないから、彼に触れられた唇の感触はもう思い出せないけど、そっと唇に触れて、夢でもいいから会えますようにと願いながら眠りについた。