第37章 最終章〜あなたが与えてくれたもの〜
こっちの生活にも慣れた頃、出版社から自叙伝を書いてみないかと言う話が持ちかけられた。
私生活を切り売りするみたいで抵抗があり断り続けていたところに、「面白そうだからやってみろ」と信長が背中を押してくれやってみる事に。
幸いにも石田三成君と言う大作家が同じ寮仲間だったということもあり、彼に電話やメールでいろいろ教えてもらいながら、信長を初めて知った小学生の頃からを書き始めた。
すると、思い出を振り返りながらの執筆は予想以上に楽しくて愛おしくて…、当初の予定よりも早く書き上がり、それが出版されると日本でベストセラーとなり、漫画化・ドラマ化され、なんと今いるこの国で映画化されると言う事態に!
そしてその映画が今回の映画祭で作品賞にノミネートされ、その作品の作者である私とその夫である信長が映画祭に招待され、その会場に向かってる最中なのだ。
「あっ、信長ほんとに待って、せっかくの髪が…」
深い口づけをしたまま私の背中に手を添えてリムジンのゴージャスシートに押し倒そうとする信長の胸を押さえる。
「出席せずにこのまま帰るか」
「もう、そんなの無理だって」
「髪とドレスが乱れなければいいんだな?」
「っ、……うん」
「では、会場に着くまでは触れさせろ」
「んぅ……」
本のタイトルは【あなたが教えてくれたこと】
「はっ、ぁ、…っ、そうだ、私信長に話さないといけない事が、ん…」
「何だ?」
「あの、ちゃんと話したいから…いい?」
「夫婦の触れ合いよりも大切な事なんだろうな?」
「う、うん」
これ以上押し倒されないように抵抗していた手をゆるめて信長の手を握り、彼の耳元に唇を寄せた。
「おい、人の動きを止めておいて誘っているのか?」
「もう、違うってば…」
そうしたのにはちゃんと理由がある。
今から彼に話すことは、彼にだけ話すナイショの話で、その内容がなんだかとてもくすぐったくて照れ臭いから。
「あのね…」
“私、冬にはママになるんだって。”
二人っきりの車内だけど、誰にも聞こえないように彼の耳にこそっと伝えた。
「っ……、」
信長は一瞬固まって……、でもすぐに私に向き直って、
「最高だな」
そう言って顔をクシャッと崩して笑ってから、
「わっ、えっ、んぅーーーーっ!」
最高に熱烈なキスをくれた。