第37章 最終章〜あなたが与えてくれたもの〜
そして次の日、空港で両親に見送られ向かった先は家ではなくて区役所で…
「貴様はこの太枠欄に記入しろ」
と言われてペンを渡され見ると、それは生まれて初めての婚姻届…
「あ、あの…これ、今日出すの?」
「そうだ」
「えっ、でも確か保証人とか必要って……あれ?」
(お父さんとお母さんの名前が既に記入してある!)
いつの間にか父と母の名前が保証人の欄に書かれてあり、信長の手際の良さにただただ感心してしまう。
「一体いつの間に?って、いやいやいやそうじゃない、ちょっと待って、婚姻届なんてこんな大切な事…これを出したらもう、結婚した事になっちゃうよ?」
プロポーズからまだ1週間も経っていないのに、もう婚姻届を提出しようとする信長に驚きを隠せない。
「当たり前だ、その結婚をする為にここに来てる。この書類を出さねば結婚した事にはならん」
「それはもちろんそうだけど…でもそうじゃなくて…」
何だか話が噛み合わない。プロポーズから結婚って、こんなに短くて早いものだっけ?
テンパってしまった私はどう返答すればいいのかが分からず、彼のトップスの裾を掴んだ。
「…まだ何か、不安なのか?」
裾を掴んだ手に彼の手を被せて、信長は優しく問いかける。
「不安はないよ。ただ急すぎて驚いた…かな?ほら、婚約って言う結婚の約束をしたばかりだったし…」
たかが紙切れ、されど紙切れ!
この一枚を提出するだけで、私たちのこれまでの関係が大きく変わってしまいそうで…
「難しく考える必要はない。プロポーズも、デートの約束も似たようなものだ。半年や一年後のデートの約束など普通しないように、プロポーズ後の結婚にもそんなに時間はかけられん」
「それは…」
比較対象がライトすぎるんじゃ…
「…だが、貴様がまだ不安だと言うのなら無理には出さん。今日は記入だけして明日出しに来てもいい」
今日出すのも明日出すのも、私的には変わらず大事なんだけど、きっと信長の中では最大限の譲歩なんだと思うと、なんだか笑いが込み上げた。
「ふふっ…」
「何がおかしい?」
「だって、信長と私の時間感覚が噛み合わなさすぎて…明日までって、全然今日出すのと変わらないのに信長が真剣に言うから…ふふっ、」
何でも完璧な彼がなんだか少し可愛く見えてしまう。