第36章 休暇
「………ぷはぁっ!」
信長に引き上げられ、彼に抱きついた状態で水面から顔を出した。
「大丈夫か?」
「うん、ごめんね。信長まで巻き込んじゃって」
突然のプロポーズに驚いてプールに落ちるなんてドジすぎるし、折角の時間を台無しにしてしまった。
「貴様は目が離せん」
濡れた私の顔を彼の大きな手で拭いながら、信長は口を開いた。
「今みたいに突然プールに落ちても、こうして近くにいなければ助けることはできん」
「あ、でも、プールに落ちたのは私も初めてだよ?それに…」
プロポーズに驚いたからと言おうと思った口は、信長の長い指に押されて遮られた。
「この3週間、貴様を連れていかなかったことを後悔した」
「え?」
「俺が何かを後悔するのは、貴様の事だけだ。…貴様とデートしなかった事も、連絡先を交換しなかった事も、他の男と街を歩いて写真を撮られた事も、事故の事を告げなかった事も…何かに後悔などしたことはなかったが、貴様の事になると、俺の判断力は正常ではいられなくなり後悔してばかりだ」
「信長……」
真っ直ぐに私を見据え気持ちを伝えてくれる彼の髪からは時折水が滴り落ちてとても綺麗だ。
「こんな世の中だ。結婚という形に縛られない方法もあるだろうが、俺は貴様の全てを俺のものにしたい」
「っ……」
ドクンッと、心臓が大きく脈打つ。
プールの中にいるのに、まるで温泉にでも浸かっているみたいに体が熱くなって行く。
「セナ、俺と結婚しろ。もう、否とは言わせん」
「は、はい」
「?…やけにあっさりとした返事だが、今度は、ちゃんと理解してるな?」
信長は私の左手を取り薬指に口づけ、怪しむように私を見た。
「もっ、もちろん理解してるよっ!信長が私にプロポーズしてくれたって………っ、」
ぶわっと、時間差攻撃のように、全ての照れが急激に襲ってきた。