第4章 ケイティの部屋
「次は世界を目指す」
誇らしげにそんな事を言っていた矢先、彼の父親が急逝した。
彼の母親は葬儀が済むと全財産を持って、信長以外の子供達を連れてハワイに移住した。
当時16歳だった彼に残されたのは、まだ発展途上で借金の残る織田プロダクション。そしてそんな織田プロに不安を感じて辞めていく社員とタレント達の裏切りと言う絶望感だけだった。
顧問弁護士だった私の父は、会社を手放して彼にハワイの母親の元へ行くように進言したけれど、彼はそれを拒否し、会社に残った平手常務(現在は専務)の指導の下、会社を立て直すことを決めた。
借金を返済し会社を軌道に乗せる為、彼は陸上をやめてこの世界に入る決意をした。
圧倒的な存在感を放つ彼がこの世界でトップに上り詰めるのに時間はかからず、2年もしないうちに借金を返し終え、プロダクションを今の大きさまでに成長させた。
それと同時に様々な誘惑や陰謀が彼を取り巻いた。
彼が言う通り、私は彼にそれらに上手く立ち回る方法を教えて、彼はそれを実践した。
ただ、そんなことを繰り返すうち、気づけば、楽しそうに走っていた頃の信長はいなくなっていた。
『敬太郎、今から九州に行って来る』
去年の夏、急にそう言って出かけて行った彼の顔は嬉しそうで、少し昔の表情に似ていた。気になって秀吉ちゃんに聞くと、気になる子を見つけたからスカウトに行って来ると言っていたと言う。
信長が偶然SNSで見つけた仲良し陸上部員達の写真と、練習風景の動画。それを見て、どの子なのか直ぐに分かった。