第4章 ケイティの部屋
「ふぅ〜。秀吉ちゃんは、どう見る?」
まだ信じられなさそうに、顔面蒼白の秀吉ちゃんに聞いてみた。
「俺は、社長が初めて自らスカウトに行くと言って来た時、正直嬉しかったんです」
「私もよ」
誰にも興味を示さなかった彼が、初めて心動かされた子がセナだった。
自社タレントとして育てたいから私にマネージャーを務めて欲しいと言ってきた時は正直驚いた。
彼が私に頼み事をするのは初めてだったから.......
彼は、織田信長は、人としての感情が著しく欠落している。
私が彼に初めて会ったのは、彼が小学校四年生の時。当時、会社を大きくすることばかりに夢中だった彼の父親は、幼少の頃から類稀な才能を発揮する信長を自身の後継者として育てるべく、ありとあらゆる英才教育を彼に施していた。
彼には、他にも兄妹がいたけれど、父親は信長以外には興味を示さず、それをよく思わない母からは、かなり冷たい態度を取られてきたと聞いている。
並外れた才能を見せる彼を前に、どの家庭教師も長くは続かなかったのだとも聞いている。
そんな時、彼の父の会社の顧問弁護士をしていた私の父から、当時T大法学部に合格したばかりの私に彼の家庭教師をして欲しいと頼まれた。
はっきり言ってガキが嫌いだった私は、すぐにクビになるように、最初から自分がオネエである事を隠さずに彼に会った。
けれど、心を掴まれたのは私。小4なんてどんなガキかと思ったら、とんでもなく整った顔の頭の切れるガキで。しかも「お前、おもしろいな」と言って、彼は私の個性をすんなりと受け入れた。
信長は好奇心旺盛で飲み込みも早く、とても優秀な生徒だったけど、いつも広い家の中で一人だった。
だから何か熱中できるものはないかと、彼が中学に入った時、部活に入るように勧めた。
彼が選んだのは陸上部。自分の身一つで競う所が良いんだと、笑って言っていた。
そう、彼は笑っていた。あの頃はまだ............
メキメキとその実力を発揮して行った信長は、高校一年でインターハイ優勝という偉業を成し遂げた。