第35章 収束
「あ、あの、あれはもう2年も前のことで、しかも私が勝手にしたことです。市さんも信長も何も悪くありません」
「ありがとう、兄さんの言う通り、本当に優しいのね」
ふわりと微笑んだ市さんに信長の面影が重なって、私はやっぱりドキンとしてしまう。
「ベルおいで」
市さんはベルを呼んで隣にお座りをさせた。
「ベル、あなたの命の恩人よ。あなたもお礼を言いなさい」
「クゥーーン」
申しなさげに私を見上げて声を出すベルに視線を合わせたくて、しゃがみ込んだ。
「ベル初めまして。セナです。元気な姿を見られて良かった。これから宜しくね」
あの時の犬にこんな形で会えると思っていなかったから何だか嬉しくてベルの頭を撫でたのに……、
ぶるぶるぶるっ!
ベルは頭を強く振って私の手を振り払い、
パシッ!
艶やかな毛が垂れ下がる長い尻尾で私の顔をはたいた。
「ベルっ!」
驚いたのはどうやら私だけではなく市さんと信長もで…
ツーーンと、ベルは私から顔を背けた。
「あれ?…もしかして私…嫌われてる?」
(綺麗で気高いなんて、まさしく織田家の犬って感じがするけど…)
「ごめんなさいね、こんなこと普段は無いんだけど…、ベル、命の恩人に失礼でしょ!どうしたの?」
ベルは市の声も聞かず信長の近くに行くと、クゥーーンと切なげな声を出した。
(あ、もしかして…)
「あの…ベルは、女の子?」
名前からもそうだとは思うけど…
「ええ、そうよ……って、あー、そう言う事?」
私の問いに市さんはピンと来たようだ。
「多分…そうかなって…?」
(ベルは多分、私が信長の彼女だから嫉妬をしているんじゃないかな?自分がいない間に勝手にこの家に来て信長を取ったと思ってるのかも…?)
「ベル、その態度はなんだ、セナにちゃんと礼をしろ!」
信長だけがピンと来ていないみたいで、ベルの態度に語気を強めた。
「信長いいよ、ベルは悪くないもん。それにあの事故の事、私は本当にもう気にしてないから、この話はこれで終わりにしよ?ねっ?」
今はハワイにいるのにわざわざ来てくれて会えただけで嬉しいから、なついてもらう事は難しいしかもしれないけど、そればかりは仕方ない。