第35章 収束
「それに、貴様は俺のファンではなかったのか?市のファンだと言う事は初めて聞いたが、本当に気の多い…油断ならんやつだ」
バッサリと切られた後は、嫌味も落とされた。
「違っ!本当に二人のファンなんだよっ!市さんが妹さんだって本当に知らなかったんだもんっ!モデルをしてて市さんに憧れない子なんてこの日本ではいないよっ!」
猜疑心いっぱいに私を見た信長に、はぁ、はぁ、と、息切れがするほど力説してしまった。
確かに私はイケメンに弱く気が多いけど、本当にファンだと言うのは信長と市さんの二人だけ。
(あっ、そうか!)
「分かった!私は、織田家の人が好きなのかもしれない…?」
「はぁっ?」
「だって、信長の事も好きで市さんのことも好きで偶然にも兄弟だったなんて、それしか考えられないよ。私はきっと…」
(織田家の人を好きになるように出来てるんだ)って、言いたかったのに、
「阿保、もういい。それ以上喋るな」
「わっ、ぷ、!」
大きな手のひらが私の顔面を掴んで私の言葉を止めた。
「あははっ、兄さんの彼女って言うから、どんな人かと構えてきたけど、可愛いっ!」
「い、市さん」
私たちのやり取りを見て大笑いをした市さんは、笑った顔が信長に似ていてどきりとした。
今の今まで兄妹なんて知らなかったけど、こうして並んで見ると良く似てる。目元とか、長身で手足が長い所とか…
「話が逸れたな」
信長は私の顔から手を離してその手を私の肩に置いた。
「改めて紹介する。セナ、俺の妹の市で、ベルの飼い主だ」
「あ、セナです。初めまして」
ベルの飼い主…って事は、あの日あの場所にいた人ってことになる。
「挨拶が遅れてごめんなさい。市です。今回の事…、知らなかったとは言え、私、あなたにひどい事をしてしまって…、本当にすみませんでした。そしてベルの命を救ってくれて、本当にありがとうございました」
市はさっきまでのくだけた態度から一変、姿勢を正して深く頭を下げた。
信長が私に会わせたかった人は市さんとベルで、わざわざ謝罪に来てくれたのだと理解した。