第35章 収束
久しぶりに会えて、それでも肌を重ね合うことができないまま手を繋がれ信長の部屋の前までやってきた。
「そう言えば、会わせたい人って誰?」
親しい人以外は部屋に入れない信長のお部屋で待たせてるって、よっぽどの人だよね?
「すぐに分かる」
私の質問に優しく答えた信長は、玄関にキーをかざした。
カシャンと鍵の開く音がして扉を開けた途端、
「ウォン!」
何かがもの凄い勢いで私の横にいる信長に飛びついた。
「なっ、なにっ!?」
慌てて横を見て確認すれば、
「ベル、待て…」
それは、真っ白で艶サラロングヘアに覆われたアフガンハウンド犬のベル。
信長に会えてよほど嬉しいのか、信長に飛び付いて顔中をペロペロと舐めて愛情を表現している。
(まるで日頃の私を見ているみたい…)
全く同じことを日頃しているだけに、客観的に見るとこうなのかと笑いが込み上げる。
それに、信長の顔が優しい…。私にも見せたことがないほどに無防備な彼の笑顔に、二人の歴史と絆みたいなものを感じた。
「ベル、分かった。そろそろ降りろ」
中々興奮が治らないベルはそれでも信長の顔を舐め続ける。
「ベル!さっきも兄さんに会ったでしょ!そろそろ離れなさい。驚いてるわよっ!」
ベルの次は女性の声。
「………あっ!」
その女性を見た途端、驚きのあまり声が出た。
「いっ、市っ!?」
「……あら?知り合いだった?」
「あっ!違います。呼び捨てしてごめんなさいっ。私あなたのファンで…」
「えーっ、そうなの?嬉しい」
にこりと笑って私の両手を握るこの女性は、市(ICHI)。
知る人ぞ知る、日本を代表するパリコレモデルだ。
「でもどうして市…さんがここに?」
(あれ?そういえばさっき兄さんって言ってた?)
「市は俺の妹だ」
ベルを落ち着かせ下に下ろした信長は、顔を拭いながらそう言った。
「えっ、信長と市さんって、兄妹なのっ!」
どんなスーパー兄妹っ!?
「割と有名な話だと思ってたけど…知らなかった…?」
「ぜっ、全然知りませんでしたっ!」
なんで教えてくれなかったの?って視線を信長に送ってみる。
「貴様が物事に疎すぎるだけだ」
ふんっと、バッサリ斬られた。