第33章 プレス発表会
「ご自身で選ばれたわけではないんですか?」
やはり顕如はツッコミを入れてきた。
「はい。これは今日のために大切な方から頂いた衣装で、とてもこの緑茶のイメージに合っていて気に入っています」
(嘘はついてない。つきたくない)
「その大切な方が誰かを、教えて頂けますか?」
「個人名は出せませんが、私の大切な人です」
(大丈夫、ちゃんと答えてる。落ち着け、私)
「その相手は、あなたの恋人でプロダクションの社長である織田信長ですよね?」
「……っ、」
穏やかなやり取りが一転、顕如の顔つきが変わった。
「すみません、CMに関係のない質問はお控え下さい」
MCも注意を促す。
「では、質問を変えます。この飲料は中学の時から部活仲間と飲んでいたそうですが、その部活を始めたキッカケは、あなたの恋人だと言うのは本当ですか?」
「それは、本当です」
まるで裁判のようなやりとりに、手の平がじとっと汗ばむ。
「じゃあ、インターハイに出られなかった原因を作ったのがあなたの恋人だと言うことはご存知ですか?」
「えっ?」
「すみません、関係のない質問はお控え下さい」
MCは少しだけ声のトーンを上げて顕如に注意をするけど…
「お前の交通事故は、フラフラと飼い主からはぐれて歩いていた犬を助けたことによるものだったな?」
顕如は本性を表したように話し方まで変えて私に問いかける。
「その犬は白のアフガンハウンドで、織田信長の飼い犬だ。お前はそれを知っていてあの男と付き合っているのか、それとも、知らずに付き合っているのかどっちだ!?」
「………っ」
ついに、答えに詰まってしまった。
全身から力が抜けていくような感覚に襲われて、踏ん張りたいのに高いヒールだと思ったように踏ん張れない。
ザワザワと会場内もざわめき出し、記者達は一斉に私にカメラを向けて、シャターを切り続ける。
「お時間となりましたので、質問は終了させて頂きます。晴海セナさん、本日はありがとうございました」
MCが質疑応答を中断し、私に舞台袖へはけるように目で合図を送ってくれる。
「……っ、本日はありがとうございました」
声は震えていた気がする。
それでも何とか挨拶をした私は頭を下げて、シャッター音がずっと鳴り響く中から逃げるように舞台袖へとはけた。