第32章 舶来
「お前…、信長のとこなんかやめて俺んとこに来いよ。代理店以外にも結構色々やってんだ。その顔にそのスタイル、そしてそのお花畑な性格…売れねぇわけがねぇ」
真剣な顔で、次はスカウトをして来た。
「せっかくですがお断りです。私の今があるのは全て社長のおかげですから」
「その社長のせいでチャンスを棒に降って売れなくなってもいいってのか?」
「それを越えて売れてみせます。…って、今の私が言っても説得力無いですよね」
アハハっと、笑うしかないけど、信長がいるから今の私がいるし、彼から離れるなんて、息をしていないのと同じ事だからできるわけがない。
「そうか。まぁ心なんてものは変わる。その時は俺んとこに来い。信長は気に入らねぇが、お前は気に入った。お前の事は潰さないでやるよ」
何とも恐ろしいセリフをサラッと言われたけど…
「潰すって…、私の事、潰す気だったんですか?」
警戒はしていたけど、潰される予定だったとは知らなかった…!
「まぁな、今回のこのCMは別の女優に決まっていたのに信長のゴリ押しでお前を無理やり起用したとでも顕如に書かせようと思ってたけど、気が変わった」
「冗談…ですよね?」
そんなカラッとした笑顔で怖い事を言わないでほしい。
「さあな。おっ、時間だ」
撤収を終えたスタッフさん達が私達を呼びに来てくれた。
「セナ 」
「はい?」
船に向かおうとした歩みを毛利さんの一言が遮った。
「お前、何で、その車の前に急に飛び出したんだ?」
「え、まだその話ですか?」
「減るもんじゃないし良いだろ?」
「そうですけど…」
潰す気だったとか、気に入ったとか、色々と本音を伝えてくれた毛利さんに対して、この時の私の警戒心が薄れていた事は確かで…