第32章 舶来
「あっ、でも、彼が必死で私を口説き落としたって書いてあった所は間違ってます」
顕如はご丁寧に、私たちが本当の恋人同士になった日の観覧車とカフェでのキス写真を掲載していて、ここには、信長が逃げる私を必死で追いかけて口説き落としたみたいなことを書いていた。
「あっ?んなこた聞いてねぇよ。あいつがお前に惚れてるってのは事実だろ?」
「……っ、」
はい。とは口に出せなくて、ただ頷いた。
顕如が今回書いた記事は、私の中の思い出を鮮明に甦らせ、結果、私はもっと信長に会いたくて仕方がなくなった。
そしてそれは、ケイティから連絡を受け、電子版で記事を読んだと言う信長も同じだったようで…
『こんな記事一つで誰かをこんなにも恋しいと思ったのは初めてだ』
と言って、画面越しに色々とエロい事を要求され阻止するのに大変だった。
「……車でひいた相手を恨んでねぇのか?」
信長との事を思い出し体を熱くしていると、今度は別の質問が飛んできた。
「うーーん、恨む気持ちは今もあの時も本当になかったです。…あの事故は私の不注意の飛び出しが原因なのに、運転手の方は本当に毎日お見舞いに来てくれて謝ってくれて…、なんだかそれが申し訳なくて…、この記事にある通り、確かに長年の夢だったインターハイには出られなくなりましたけど、それは本当に私が悪いし、家族もみんな同じ気持ちで、その件は解決しました」
「とんだお花畑一家だな」
「えっ?」
「アホみたいにお人好しな一家だなって言ってんだよ」
「なるほど…でも、治る怪我だったからかもしれませんけど。やっぱり後遺症が残る様な怪我を負っていたら、こんな風には言えなかったかもしれません。でもお花畑って…、毛利さん、意外と可愛い表現するですね」
「ああっ!?」
「だって、お花畑って…久しぶりにその言葉聞きました。アハハッ」
「っ、てめっ、俺を誰だか分かって言ってんのか?」
毛利さんは私の首に腕をかけて軽く絞めてくる。
「舶来の毛利さんでしょ?分かってますよ。もう苦しいからやめて下さい」
手加減してくれてるから苦しくなんかは全然ないけど、とにかくどこかで信長に見られている様な気がして、(信長が女の子にこんなことをしていても嫌だし)私は毛利さんの腕から急いですり抜け距離を取った。