第32章 舶来
「…犬が、見た事がない綺麗な大きな犬が歩いてて、首に可愛いカラーはしてたのに飼い主が見当たらなくて、最初は歩道を歩いてたのに、どんどん車道の方に向かって行くから、危ないってつい飛び出しちゃって、それで…」
「ドンってひかれちまったって事か」
「はい」
あまり考える事なく、その時の状況を説明してしまった。
「じゃあ恨むのは運転手じゃなくてその犬の飼い主って訳だ。犬の命も助けてやったんだ。もちろんその飼い主は名乗り出て謝罪してんだろ?」
「え、…いえ、飼い主は、誰なのかも知りません。多分、こんな事が起こった事も知らないんじゃないかな…?」
その場にいた友達は、その犬が飼い主らしき人の元へ戻って行ったのを見たとは言っていたけど…
「おいおい、てめぇの人生狂わされといて…んな呑気な事…」
「でも…犬を勝手に私が助けただけで、…って言うか、毛利さんに言われる今の今までそんな事考えなかったから…」
「だからお花畑だって言ってんだよ。その飼い主、俺が探してやろうか?」
毛利さんは真剣な顔から、「はい」と言えばすぐにでもその飼い主を探し出して来そうな気がして…、
「必要ないです。もう2年も前のことだし、足も治ってますから。ふふっまたお花畑って言った」
何だかその飼い主を知る事は自分の心がやめておけと言っている様で、私は他の話題で誤魔化した。
「お前の頭がお花畑なんだから仕方ねぇだろ、笑ってんじゃねえ」
少し照れた様に私の頭をグシャグシャとした毛利さんを完全に信用していた。
「セナ ーーーッ、船に乗るわよー」
「あ、はーい。毛利さん、行きましょう」
「ああ…」
顎に手を当て何かを考えていた毛利さんは、飼い主探しを諦めてはいなかった。
「とりあえず次会うのはのプレス発表会だな。お前を売り出すためど派手な会を打ち上げてやるから楽しみにしておけ」
「あ、はい。ありがとうございます。宜しくお願いします」
CM制作発表会(プレス発表会は)は2週間後。
様々な人の思惑が動き始めていた。