第31章 擬似遠距離恋愛
「あら良いのよ。それがあんたの魅力の一つでもあるし、社長の気に入ってる所でもあるんでしょ?」
「そ、そうかな?」
「バカっ!そんなの、本人に聞きなさいよ」
「はい、すみません」
調子に乗ってる場合じゃなかった。
「…で、話の続きだけど、確かに毛利からもCMのオファーは来たのよ。一年以上前かしらね。確かにあのCMは魅力的だけど、毛利って男とうちの織田プロはちょっと折り合いが悪くてね…」
「仲が悪いって事?」
「よく分からないけど、あっちが一方的にこっちに喧嘩売って来てんのよね。毛利は確かにやり手で仕事もできる男だけど、タレント潰しとしても有名でね、特にうちの事務所がこれから売り出そうってタレントを嬉々として潰しにかかる所があって、それであんたの事も社長は断ったって訳。まぁ、家康くらい飄々としてられればどんな案件でも受けるんだけどね」
「そうなんだ…。でも、潰すってどうやって?」
「まぁ、色々よ。毛利はあの顕如とも繋がってるから、異性問題や薬物問題をでっち上げて芸能界から抹殺とかね。他にも色々とあるけど酷いものよ。タレント側にも非はないとは言えない所もあって、そこら辺をうまく突いてくるわけ」
「なんでそんな酷い事…」
「さぁね、まぁうちに限ってはお金ではない事は確かね。社長は色々と恨み買ってるし、今は落ち着いたけど会社を引き継いだ当初はかなり強引な事もして来たからね、お互い様だと言われれば痛いわね」
「そうなんだ…」
若くしてお父さんが急に亡くなって、借金だらけの会社を日本で一番の芸プロにするには、きっと色々あったんだ。冷たい一面を持つ信長を少しだけど見た事があるだけに、それしか知らない人たちからは、誤解されているのかもしれない。
「あの、でもそのCMね、毛利さんにやりたいかやりたくないかを聞かれて、やりたいって私答えちゃって、そしたら担当者に話しつけてやるって言ってお店から出てっちゃったの」
「はぁっ?」
「最初は断ってたんだけど、なんかあれよあれよと話が進んじゃって…みんなが色々と考えてくれてたのに…何も知らず、ごめんなさい」
やっぱりあの時思った通り、私のためを思って断っててくれてのに、少しでも魅力的だと心が揺らいだ自分を恥ずかしく思った。