第30章 舞台挨拶
「っどうしよう…」
何だか大変な事になってない?
「ちょっと落ち着こう」
一旦落ち着こうと椅子に腰をおろすと、テーブルの上にあるのは自分が頼んだカフェオーレだけ。
「あの人何も頼んでないじゃん……一体何しに来たんだろう?」
結局、会って少し話をしただけの人に奢ってもらってしまった…
「ああ、それよりもケイティに話さなくちゃ…」
勝手に仕事を引き受ける事は、所属タレントとして固く禁じられてる。
「あ、もう時間だ…」
いつの間にか時間も経っていて、映画館の入れ替え時間になっていた。
急な問題浮上だけど、まずは目の前の事をちゃんとしなければ…
「とりあえず、舞台挨拶だ」
両手で軽く頬を叩いて気持ちを入れ替え、私は映画館へと向かった。
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控室のない映画館では、私達出演者も一緒になって映画を鑑賞する事に…
本日は満席のため、最後列の後ろの通路にパイプ椅子を置いてもらい、そこで映画を鑑賞し、観終わった所で舞台挨拶となった。
今日の舞台挨拶には、監督と主演男優、そして私の三人が参加。
SNSなどの事前告知で舞台挨拶を知っていた人もいれば偶然居合わせた人もいて会場内の反応は様々で、けれど、監督の制作裏話がとても面白いのと、それを盛り上げる質問を繰り出す映画館のスタッフさんのやりとりが面白くて、会場内はとても良い雰囲気に包まれていた。
私は、時折振られた事に笑顔で頷いたり返事をする適度で、このままあとは質疑応答をするのみとなった。
映画雑誌などの関係者がちらほらと来ていて監督に質問したり、男優さんのファンの人が質問したりと、そのほのぼのしたやりとりを聞いていた時、最後列の席の人が手を上げた。
「……あ、手が上がりましたね。最後列の方、あ、あなたですどうぞ」
当てられ立ち上がった男性を見て、会場内が少しザワっとした。
男性の顔に、くっきりと斜めについた深い傷跡があったからだ。