第30章 舞台挨拶
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ミニシアターは、思っていた以上にミニだった。
「完全入れ替え制なんだ…」
控え室はないと聞いていたけど、映画の上映部屋とチケット販売所とトイレ以外は、小さなロビーがあるのみ。
「上映が始まるまでは外でお待ち下さい」
モギリのお兄さんに、にこやかにそう言われ、気合を入れて1時間前に来てしまった私は時間を持て余す羽目に…
他の出演者たちの姿は勿論ない。
みんなこう言う場所なのだとちゃんと知ってるんだ。
ケイティも他の用事でギリギリに着くと言っていたし、映画館の外で並んでいる人達の視線も気になるため、私は近くのカフェで時間を潰すことにした。
「はぁ〜まだまだ勉強不足だなぁ」
ミニシアターと言えど、幼い頃に街の上映会に行った公民館くらいの広さはイメージしていた為、都会をまた一つ知った感じだ。
「でもカフェ・オーレは美味しい」
大好きなラテはなくて、カフェオーレと言うメニューを注文したけど、レトロなマグカップでこれはこれでとても美味しい。
「ラテとオーレの違いってなんだっけ?国?コーヒー豆の違い?うーん、」
「どっちも正解だ」
困った時のスマホ検索をしようとスマホを手に持つと、頭から男性の声が…
今日はよくよく人に声をかけられる日だなぁなんて思いながら顔を上げると、見たことのない男性だった。
「…あの」
「だから、オーレはフランス語でラテはイタリア語、どちらも牛乳って意味で、後はコーヒー豆の違いと淹れ方の違いだ」
もはや気になっているのは、ラテとオーレの違いではなく、この男性がいきなり話しかけて来てしかもテーブルを挟んで目の前に座ろうとしていることだ…
「あ?店内満席でよ、相席、いいだろ?」
急いで周りを見れば、確かに満席で…
田舎から都会に出て来て初めて知った相席にはまだ慣れないけど、混んでいる時はお互い様だから仕方がない。
「あ、はい。どうぞ」
「悪いな」
男性はドカッと腰をかけ、長い足を外に出して組んだ。