第30章 舞台挨拶
「へぇ〜、ミニシアターでしょ?懐かしいなぁ〜、まだ仕事が忙しくなる前はインディーズフィルムが好きでよく行ってたんだ。どこのシアター?」
「えっと…都内の”サロンdeシアター”ってとこ。私は初めて行く所だけど知ってる?」
普段からあまり映画を見ないこともあるけど、ミニシアターと呼ばれる所にはどこも行ったことがない。
「うん、知ってるよ!今日の夕方何時から?なんて映画?」
この間のホームパーティーでも思ったけど、蘭丸君はとても好奇心旺盛のよう、人懐っこい笑顔で矢継ぎ早に質問をしてきた。
「えっと、私は自分の入り時間しか知らなくて…ちょっと待ってね。確かスマホに詳しい予定が送られて来てたような…」
「蘭丸、あんたそんな時間聞いてどうすんの?観に行くわけじゃないでしょ?」
カバンの中にあるスマホを探していたら、玲衣の声がした。
「あ、玲衣、おはよう」
スマホを探しながら玲衣に挨拶をするけど、玲衣は険しい顔で蘭丸君を睨みつけている。
「セナ おはよう。それよりも、こいつに予定なんて教えない方がいいよ」
玲衣は蘭丸君を指差して厳しい口調で言う。
ホームパーティーの時にもあったこんなやり取りに、蘭丸君の顔からも笑顔が消えた。
「あんたが映画好きなんて初めて知った。自分の主演映画だって見ませーんなんて言って炎上させてたの誰だっけ?」
「俺は自分の演技が好きじゃないだけ。他の映画は見るもーん。セナ 助けてー!玲衣がいじめるよー!」
睨みを効かせる玲衣にベーと舌を出すと、蘭丸君は私の後ろに隠れた。
「セナ、そんな奴庇う必要ないよ!蘭丸こっちに来な!今日こそその性根を叩き直してやるっ!」
玲衣が私の後ろに隠れる蘭丸君に手を伸ばすと、蘭丸君はヒラリとそれを交わした。
「やだよーだっ!玲衣の怒りんぼっ!じゃあセナ、舞台挨拶がんばってね!」
蘭丸君は手をヒラヒラとさせ軽々とした身のこなしで自分の部屋へと逃げていった。