第29章 突然の・・・
「あっちに、拠点を移すの?」
「いや、本社機能はこのまま日本に残して、先ずはアジアから支社を展開して行く。そこからヨーロッパ、アメリカと広げていくつもりだ」
「壮大なプランだね」
「ああ、日本の芸プロで成し遂げた所はまだないが、必ず実現させる」
不敵に口角を上げる信長の、この自信に溢れた笑顔がとても好きだ。
「頑張ってね」
でも同時に寂しさを覚えてしまう。
私は何かを手伝えるわけではないし、芸能と学業の両立だけでいっぱいいっぱいだ。
その芸能の仕事だって、雑誌の仕事以外はイベントのゲストやMVの出演、ここ最近はドラマや映画のちょい役などの仕事が入ってくるようになって、少しずつ仕事料は増えて来てはいるけど忙しいと言えるほどではない。
「一緒に来るか?」
「え?」
「今にも泣きそうな顔の貴様を置いてはいけん」
私のこう言うところが子供なんだと、自分でも分かってる。頑張ってね。なんて言っていても、顔まで笑顔にはできていないんだ。
「寂しいのはほんと。でも大丈夫だよ。今までだって毎日会えていたわけじゃないし…2、3週間以上会えなかった事もあるから平気」
片思いしていた時に比べたら…、なのに何でこんなにも寂しいんだろう…?
「セナ …」
大きな手でそっと両頬を包まれると、おでこにキスが落ちた。
「ふふっ、信長は心配性な上に、私を甘やかす天才だね」
だから信長がいないと、自分がどんどんダメになってる気がして不安で、この手に触れられない距離に何日もいなければならないのはとても寂しい。
「会えなくても平気などと言える内はまだまだ俺の仕込みが足りん証拠だ。好きだ好きだと言いながらも、いざとなると聞き分けがいいのは気に入らん」
「っ、でも、泣いて叫んで困らせる女はきらいでしょ?」
そんな女はうっとおしいって、日々つまらない事で煩わされるのはごめんだと、まだ専属契約の時だったけど、言われた言葉を今でも覚えてる。