第29章 突然の・・・
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「ふっ、緊張などした事はない。聞かれた事に対して言いたい事だけを言えばいい。まぁ俺はほとんど答えなかったがな」
「そ、そうなんだ…」
夜になり彼の部屋へと行き尋ねてみると、なんとも信長らしい答えが返ってきて、聞いた相手が凄すぎたと実感。
「だがミニシアターの舞台挨拶は大劇場と違って客との距離も近くセキュリティも弱い。変な奴が寄って来ない様に気をつけるんだな」
「あ、うん。でも来る人のほとんどは監督か主演の男優さんのファンばかりだろうから大丈夫だよ」
「阿呆、貴様の大丈夫が一番あてにならん」
信長は呆れた声でそう言うと、片眉を上げて私を見た。
「そんな事ないよ。自慢じゃないけど本当に私はモテないし、そんな過激なファンとかもいないし、これといって自分からは情報発信もしてないから。…でも気をつけるね、心配してくれてありがとう」
ソファーに並んで座っていた心配性な信長に甘えたくなり、ギューっと横から彼の胸に手を回して抱きついた。
「セナ」
彼の声音が甘くなる。
ドキドキと、たちまちに煩くなる自分の鼓動を感じながら顔を上げると、優しく微笑む彼の顔が近づいてくる。
そっと目を閉じれば自分の唇に、彼の唇が重なる。
一番甘くて幸せな瞬間。
「俺はその日から暫く海外だ。敬太郎にはよく言っておくが、くれぐれも気をつけろ」
重なった唇を直ぐに浮かせると、信長はもう一度私に念を押した。
「う、うん」
いつも以上に心配してくれるのは嬉しいけど、それよりも暫くは離れ離れになることの方が気になる。
「暫くって、どれ位?」
今だって、毎日会えるわけじゃないけど、やっぱり何日も会えないのは寂しい。
「2、3週間で戻る。ただ、これを機に海外事業を本格化させていく。必然的に海外での仕事がこの先は増える」
「…そうなんだ」
今や日本一の芸能プロとなった織田プロは、本格的な海外進出に向けて動き出していて、今年に入ってからの信長は、日本と海外を行ったり来たりと忙しい日々を送っていた。
それが本格化するって事は、この先もっと会えなくなると言う事だ。