第3章 専属契約
「ふっ、ガチガチだな」
笑いを含んだ声でそう言うと、ツーっと、私の背中を撫でた。
「ひゃ!」
「素直な反応だ、もっと聞かせろ」
ちゅっと、耳の後ろにキスが落とされると、ゾクリと身体が震えた。
ドアに押さえ込むように抱きしめられているから、身動きが取れずパニックになっている私の背中に、今度は直に彼の手が触れた。
(えっ?)
洋服越しではない、生々しい掌の感触。もう完全にキャパオーバーだ。
必死で社長の胸を押して、疑問を口にした。
「っ、どうして、こんな事するんですか?」
「男と女が部屋に二人きり。する事は一つだろ」
人が決死の思いで紡ぎ出した言葉をいとも簡単に跳ね除け、彼は行為を続けようと再び私を抱きしめた。
「やっ、待って」
「貴様も期待してこの部屋に来たんだろう?望み通りにしてやると言っている」
「ちがっ、そんなつもりじゃ」
「初めてで緊張しているのか?安心しろ、ちゃんと解して気持ちよくしてやる」
ちゅっと、本日三度目のリップ音が耳を掠めた。
もう、いつでも気を失う自信がある。
解すって、ほぐすって?一体何を?
緊張?肩のこり?うどんの麺?魚の身?結び目?
何なの?気持ちよくしてやるって、何?
目の前に急に現れたハードルはあまりにも高くパニックで、恐怖心も、羞恥心も緊張も、全ての限界を超えた私の目からは涙がこぼれ落ちた。
「っ.............っく、ふ、ぅうっ」
一度溢れた涙はどんどん溢れてきて嗚咽も抑えられなくなった。
「..............っ、泣くな」
「ご、ごめんなさっ.....っく、ごめんっ、なさいっく」
でも、怖い。
「セナ、大丈夫だ。泣くな」
彼はそう言うと、泣きじゃくる私の顔を両手で包み込み、こぼれ落ちる涙を唇で受け止め、優しく瞼にキスをしてくれた。
「っ、社長は、私の事が好きなんですか?」
そんなはずない事は分かってるけど、彼が余りにも優しく私の涙をその口で拭ってくれるから、聞かずにはいられなかった。