第3章 専属契約
「ふっ、物覚えの悪い奴だ。あれは貴様への引っ越し祝いだと言っただろう」
気にするなと言わんばかりに彼は軽く笑みを作ると、再び書類へと視線を戻した。
「でも、嬉しかったので、あと、とても気に入っていて、大切に使います。ありがとうございました。これ、社長が金平糖が好きだと聞いたのでお礼にと思って、よかったら食べてくださいね」
ドアから社長のデスクまで早足で近づいて、お礼の金平糖を置いた。
「本当に、ありがとうございました。失礼します」
社長に一礼して体の向きを変え、また早足でドアへと向かった。
(ほっ、任務は終了)
やっと渡せた安心感と、会いたかった社長にも会えて満足した私は重圧から解放され、後はドアを開けて退室するのみとなった。
心軽やかにドアを開けようとドアノブを握った時、
「待て」
ドアノブを握る自分の手の上に、節くれだった大きな手が被された。
(えっ?)
振り返る余裕もなく、背中に彼の体がくっついたのを感じた。
「セナ」
艶のある声で私の名前を耳元で囁きながら、私の腰に手を回した。
「は、はい」
耳に触れる吐息も、重ねられた手も熱い。
ちゅっ、とリップ音が耳に届くと、甘い刺激が体を突き抜け、思わず声が漏れた。
「んっ...........」
首すじに、彼の唇の感触。
押し当てた唇が離れると、次は舌の這う感触がして身体が窄んだ。
「セナ」
再度私の名前を囁くと、私の体を向かい合わせに反転させ、そして優しく抱きしめてきた。
「し、し、し、しゃ、社長!?」
う〜どうすればいいの?これはどう言う状況?
もしやこれは、外国式の挨拶?
いやいや、海外ドラマでもこんな挨拶の仕方見た事ない。
う〜頭がグルグル回る。
男性と二人っきりでデートをしたこともなければ、手を繋いだことすらないのに、この間のいきなりのキスに続きこんなハグは私にはレベルが高すぎて到底理解できない。
もう心臓も爆発寸前で、彼の腕の中、ただ体を強張らせるしか出来ない。