第3章 専属契約
その日の午前中は都内のスタジオでBbの撮影を済ませ、午後は大学で講義をふたコマ受けて、夕方は都内でCMのオーディションを受けて寮へと戻った。
秀吉さんに確認したら、社長はやっぱり今日は社内にいるとの事。
急いでシャワーを浴びて服を着替え、メイクをした。
別に、この間のお礼を言って、お礼の品を渡したら退室する。たった5分もかからない事だけど、
会えなかった間、少しでも綺麗になったと思って欲しい。
会えなかった日々で、憧れはいつの間にか恋心に変わった。
18年生きてきてこれが初恋なんて笑えるし、相手は日本中の女性が彼女の座を狙うほどの人で、この恋が成就しない事は火を見るより明らかだ。でも、自分でもどうしようもないほどに彼に惹かれている。
毎日、いつどこで会っても直ぐに渡せるように持ち歩いていた社長へのお礼の品を手に持って階段を下りた。
「俺はもう帰るけど、社長は今いらっしゃるから入っていいぞ」
帰り支度中の秀吉さんに「お疲れ様でした」と声を掛けてから、社長室の部屋をノックした。
コンコンッ
「入れ」
久しぶりに聞くオレ様な声。
正直な私の胸はドキドキと煩く鳴り始めた。
「失礼します」
ドアを開けて彼がいるであろうデスクの方を見ると、書類に目を通している彼の姿を見つけた。
約一月振りに見る彼は珍しくスーツを着ていて、更に私の胸を煩く騒がせた。
「どうした」
書類を見る手を止めて、彼が私を見た。
ドキンッ
あんなに毎日この日を待ってたのに、いざとなると、恥ずかしさと緊張で、体が思うように動かない。
「あ、あの、宣材写真の時の衣装と、あと光秀さんのコスメのお礼をしたくて」
ドアに張り付いたように動くことも出来ず、辛うじて質問に答えた。