第26章 varlet
「ねぇ、ねぇ、ちなみにその犬ってどんな犬だったか覚えてる?」
蘭丸君、本当にぐいぐい来るなぁ.....
でも、こんな人懐っこくて可愛い顔で聞かれると、こっちもついつい答えてしまう。
「.........それは、覚えてるよ。白っぽくて長い毛の、アフガンハウンドって犬。あまり見ない犬だから、もしかしたら知らないかも........」
私もあの日友達に教えてもらって初めて知った犬種。
「あー、その犬なら良く知ってるよ」
私の予想とは反対に、蘭丸君は大きく頷いた。
「あ、そうなの?犬詳しいんだ?」
「うーん、詳しくはないけど、一昨年の夏頃まで信長様も同じ犬飼ってたから」
「...................えっ?」
同じ犬って.....信長の犬って、アフガンハウンドだったの?
「あっ、もしかして、信長様が犬飼ってた事、セナ知らなかった?」
くりくりの大きな目を不思議そうに光らせ私を覗き込む蘭丸君。
「あ、ううん、飼ってた事は知ってたけど、てっきりゴールデンだと勘違いしてたから.....」
屋上庭園まで作って飼う程の大きさで、しかも白っぽい犬の毛が落ちてたから、レトリバー犬だと勝手に思い込んでたし、本人に確認したこともなかったから.........
「でも、凄い偶然だね〜」
「えっ?」
「だって、あまり見ない犬で同じ毛色なんてさ、しかもその時信長様も九州にいたんでしょ?セナが助けた犬って、実はベルだったりして?」
「っ.............」
蘭丸君は冗談っぽく話してるけど、私には全然冗談に聞こえない。
自分の顔が、だんだん強張っていくのが分かる.........
ベルって、信長の飼ってた犬の名前だよね?一度だけ、ケイティから名前を聞いたことがあるから間違いない。
確かに、よく目にする犬種ではないかもしれないけど、日本に一頭しかいないってわけじゃない。毛色だって、きっと人気の色味なのかもしれないし.......、信長が九州に来てたからって、犬を一緒に連れて来たりなんて、旅行じゃない限り余りしないよね?
妹さんがハワイに連れて行った時期と、私の事故の時期が重なってるのも、単なる偶然だ........