第26章 varlet
「この焼きリンゴどこに添えるの?」
「もうすぐ焼き上がってくるローストチキンに添える」
「オッケ。じゃあ先にこの焼き上がってるローストポーク切るよ?ソースはこれ?」
政宗さんの言葉に焦る私と違い、玲衣は政宗さんの横に立ってテキパキと作業を始めた。
「おう。頼んだ......って、お前初めて見る顔だな。しかも美人だ」
「ありがとう。玲衣よ。シンガーソングライターしてるの。あなたは写真家の政宗さんでしょ?」
「俺を知ってくれてるとは光栄だな。今度お前の事撮らせろよ」
「あいにく、ヌード写真撮ってる程暇じゃないの。売れた時にまた誘ってくれる?」
「益々良い女だな。気に入った!絶対に撮る」
な、何だかイケメンと美女のせめぎ合い?(使い方違う?)
二人の会話にドギマギしながら、私はフリルレタスを千切ることしか出来ない。
「セナ、んなもん千切ってないで、出汁作ってくれ」
「えっ、あっ、出汁?」
どう見ても洋風な食事なのに、出汁?
レパートリーの少ない私には全然イメージが追いつかない。
「?何だ、出汁取った事、無いのか?」
「あっ、ううん、あるけど....何に使うの?」
「ああ、この後作るかぶ料理に使う。何の出汁が取れる?」
「あ、えっと....、かつおと昆布、だけ...です」
(出汁パックで手抜きの時もあるとは言えない雰囲気だ......)
「十分だ。じゃあそれ600ml頼んだ」
「は、はいっ、」
お水を測って鍋に火を沸かす。
いつもは一人で作業をするこのキッチン(時々信長と二人)。
広くて様々な設備があって使いこなせていなかったけど、政宗さんに次々と使ってもらってキッチンツール達も今日はきっと幸せに違いない。
「セナ、今度私の実家の方の出汁を教えてあげる」
失敗のない鰹節で出汁を取ろうとスケールで測っていたら、玲衣が隣に来て耳打ちしてくれた。
「玲衣の実家って確か、福岡?」
「そう。いつもは鰹節とかが多いけど、アゴ出汁って言って、トビウオで取る出汁も美味しいから教えるね」
「アゴ出汁かぁ〜美味しそう。でも、玲衣が料理得意なんて意外だった」
ハーフスレンダー美人はセロリとかの野菜ディップばかりを食べてる勝手で失礼なイメージかあったから......