第3章 専属契約
「セナはストレートが一番似合う。余りさわらず自然に仕上げてくれ」
「分かりました」
ストレートが似合う。
そんな言葉すら嬉しくて、何度も頭の中でその言葉が繰り返される。
鏡越しに社長のいる方をチラッと見ると、こっちを見ている彼とまた目が合って、慌てて下を向いた。
「..............ふっ、しのぶれど色に出でにけり、と言ったところか」
「えっ?」
「お前は隠し事が苦手なタイプのようだ。顔に出し過ぎる。この業界では苦労するぞ」
「き、気をつけます」
社長を意識してる事がバレバレだと言いたかったんだよね。本当に気をつけよう。初めて会う人にバレてしまうくらい顔に出てたんだとすれば、社長にもすぐに気づかれてしまう。
芽生えたばかりのこの思い、叶わないと分かっているけど大切に育てたい。
鏡に映る彼を盗み見るだけでもドキドキして、幸せな気持ちが心に広がって行く。
撮影に付き合えないと言っていた社長は結局、撮影の最後まで立ち会ってくれ、写真も選んでくれてから仕事へと戻って行った。
光秀さんからは、「社長に頼まれたから持って行け」と言われ、メイク用品、道具、スキンケア用品一式を手渡され、私はまた、社長にお礼を言うチャンスを手にした。
・・・・・・・・・・
とは言え、芸プロの社長はとても多忙だった。
入ったばかりのペーペーの新人が、よく2日も連続で社長に会えたなと思う程に社長は忙しくて、おいそれと会える存在ではないと気づくのに時間はかからなかった。
「社長、今日いるわよ」
社長が社内にいる日は教えて欲しいとお願いしていたケイティがそう教えてくれた時には、既に四月も半ばとなり、大学の入学式も終わって憧れのキャンパスライフも始まり、Bbの撮影も始まっていた。