第25章 貴方と温まる夜〜大晦日特別編〜
信長は、はっきり言って頭が良い。何と言ってもこの日本で一番頭の良い大学の法学部を出ていて弁護士資格も持っている。だから、いつだって何かを思い出す時は、頭の中にある”引き出し”を引き出して来る。
私の頭の中にはないその”引き出し”を持ってるくせに覚えていないわけがない!
(どうせ、その当時噂になってた人といたんでしょ!)
私の心は途端にトゲトゲしくなるけど、今年の私はひと味ちがう。
「ふーん。そうなんだ」
今年の私はもう過去に囚われたりなんかしない。(多分)
「取り敢えず、今夜は楽しもっか」
「ふっ、そうだな」
「何乗ろうか?私は新しく出来たローラーコースターに乗りたいなぁ」
「それも良いが、先ずはこれだろう?」
信長はそう言うと、後ろのアトラクションを指さした。
「........観覧車?」
「ここには、ジンクスはないのか?」
悪戯な顔で笑う信長に、あの頃の思い出が甦える。
「分からない........けど、」
もう一度、乗りたい。
手を引かれるまま歩き、観覧車に乗り込んだ。
「何だか、あの日を思い出すね」
「そうだな」
この世の終わりの様に感じた1日が、信長の出現によって始まりになった。
それは、交通事故でインターハイを諦め落ち込んでいた私の前に、突然信長が現れモデルになれと言われた時と同じで、信長はいつも私に新しい人生の始まりを教えてくれる。
「あの日、信長が迎えに来てくれて本当に嬉しかった」
あの日は、例えあの1日だけの奇跡だとしても、もうそれで良いと思った。
少しづつ上に上って行く景色を見ながら、信長の肩に頭を乗せる。
「あの日、貴様を失うのかと思ったらあそこにいた。俺自身、あんなに焦ったのは初めてだった」
私の頭を優しく撫でて顎を掴むと、熱を孕んだ目に捕らえられた。